「インターネット上での写真・動画の配信」・・・ 弁護士・伊藤佑介
私は趣味で日本中の有名な観光スポットに行き,風景,建築物の写真や動画を撮影してSNSにアップしています。一般の通行人等が写り込まないように配慮はしているのですが,その他何か法的に気をつけるべき問題点はありますか。
まず,観光地で写真や動画を撮ることについては,当該施設の管理者との関係で問題になります。当該施設に立ち入った上で撮影をする場合,例えば撮影禁止等の表示がされている場合,その場所で撮影できないことは当然でしょう。
撮影禁止ではない場所で撮影を行う場合,次に問題になるのが通行人等の第三者の写り込みです。個人として識別し得る状態で人が写り込んでしまった場合,当該第三者との関係で肖像権侵害の問題が生じ得ます。したがって,写り込みのあるコンテンツをインターネット上にアップする際には,第三者の容貌が判別できないように処理しておく必要があります。
これに対して,撮影したコンテンツに,人ではなくて,他人の著作物が写り込んでいる場合は,当該写り込んでいる他人の著作物が,撮影した写真や動画の中で,「軽微な構成部分」(著作権法第30条の2第1項)と判断されれば,「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(同法同条第2項)を除いて,インターネット上にアップすることは可能です。
では,撮影OKの場所において,写り込みの問題なく撮影した場合,全ての法的問題をクリアしているでしょうか。そもそも,撮影の被写体となっている建築物等については,何かしらの権利問題はないのでしょうか。
実は,建築物自体にも「建築の著作物」としての著作権が生じ得ます。一般的には,建築物の中でも美術的な要素を持つものについては,著作物性が認められており,寺社仏閣や城郭等はこれに該当すると解釈されています。
もっとも,建築の著作物に関しては,著作権法第46条で当該著作物の写真・動画を撮影し,インターネット上にアップすることは認められているため,撮影された建築物が当該コンテンツの「軽微な構成部分」に該当するか否かに関わらず,このような利用方法は適法となります。ただし,利用が適法とは言っても,撮影された建築物が他人の著作物であることに変わりはないため,撮影された建築物に修正を入れすぎる等の形で過剰な改変をした結果,同一性保持権侵害及び名誉・声望を害する方法での利用に基づく著作者人格権侵害等が生じる問題は留保されています。
なお,趣味での撮影及びSNSで問題になることは少ないですが,有名な建築物等を撮影した上で,広告利用をはじめとした商業利用する場合,事後クレームを防止するため,事前に管理権者に許諾を得ることが多いと思われます。しかし,このような許諾は,法的には何についての許諾なのか,曖昧な部分も多く含まれています。
つまり,当該施設内に立ち入った上で撮影を行うのであれば,施設管理権者の撮影許可が当該許諾の本質となると思われますが,当該施設内に立ち入ることなく撮影を行った場合,管理権者の許諾は必要ないようにも思えます。また,建築物は「物」ですが,「物」に肖像権は存在せず,いわゆるパブリシティ権も人以外には成立しないものとされています(「ギャロップレーサー事件」最高裁判決参照)。
このような場合の許諾を法的に根拠付けるとすれば,違反となる可能性は低いですが,金銭を対価とする,商標法や不正競争防止法違反とならないための合意及び著作者人格権不行使の合意(著作者が管理権者でないとしても)というところでしょうか。むしろ,権利侵害を防ぐための許諾というよりは,PR契約として捉えた方が分かりやすいように思います。
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