「育児・介護休業法」・・・弁護士・高井陽子
少子高齢化が急速に進む中、持続可能な社会を築くためには、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするための施策は不可欠であり、それぞれのライフステージに応じて働き方を選べる社会となることが求められています。
そこで、@子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、A事業主に対する育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、B介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講じることを目的として、育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)等の一部を改正する法律が成立しました。
同法は、一部を除き令和7年4月1日及び同年10月1日に施行されます。
1 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
(1) 子の看護休暇を取得できる労働者等の要件の見直し
子の看護休暇とは、負傷し又は疾病にかかった子供の世話又は疾病の予防を図るために必要な世話等を行う労働者に与えられる休暇です。
これまで、対象となる子は、小学校就学の始期に達するまででしたが、小学校3年生修了までに拡大されます。
また、取得事由につき、これまでの病気・ケガ、予防接種・健康診断に加えて、感染症に伴う学級閉鎖や入園(入学)式・卒園式も加えられます。昨今のインフルエンザやコロナウィルスの流行による学級閉鎖が想定される中で、今回の改正は、働く父母の今現在の懸念点に寄り添うものであると思います。
さらに、勤続6ヶ月未満の労働者を、労使協定に基づき看護休暇の取得対象者から除外する仕組みが撤廃されます。
(2) 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
これまで、3歳未満の子を育てる労働者は、事業主に対する請求により残業が免除されていましたが、かかる対象が小学校就学前の子を養育する労働者にまで拡大されます。
(3) 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
事業主には、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、次の5つのうち2つの措置を選択して講じること、3歳未満の子を養育する労働者に対し、子が3歳になるまでの適切な時期に、当該措置を労働者に個別に周知・意向確認することが義務付けられます。
・始業時刻の変更等の措置
・テレワーク等(10日以上/月)の措置
・短時間勤務の措置
・保育施設の設置運営等厚労省令で定めるもの
・就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇付与(10日以上/年)の措置
(4) 育児のためのテレワーク導入の努力義務
事業主には、3歳までの子を養育する労働者が育児休業をしていない場合に、テレワークを選択できるように措置を講じることが努力義務化されます。
2 育児休業の取得状況の公表義務の拡大
これまで、常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主に、毎年1回以上、育児休業の取得状況を公表する義務が課されていましたが、かかる対象が、常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主にまで拡大されます。
3 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化
(1) 介護休暇を取得できる労働者の要件見直し
勤続6ヶ月未満の労働者を、労使協定に基づき介護休暇の取得対象者から除外する仕組みが撤廃されます。
(2) 介護のために柔軟な働き方を実現するための措置
事業主には、介護休業や介護両立支援制度等の申し出が円滑に行われるようにするため、次のいずれかの措置を講じることが義務付けられます。
・介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
・介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
・雇用する労働者の介護休業・介護両立支援制度等の利用に関する事例の収集・提供
・雇用する労働者へ介護休業・介護両立支援制度等に関する制度、及び取得促進に関する方針の周知
また、事業主には、介護に直面した旨の申し出をした労働者に対して、介護両立支援制度等について個別に周知し意向を確認することが義務付けられます。
さらに、事業主には、40歳に達した労働者などに対して、介護両立支援制度等の情報提供や労働者への研修等の雇用環境整備が義務付けられます。
(3) 介護のためのテレワーク導入の努力義務
事業主には、要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講じることが努力義務化されます。
以上の改正に伴い、事業主のみなさまにおいては、就業規則の変更が必須であり、対応へのご負担もあることと思います。一方で、少子高齢化や共働き世帯の増加の中で、より働きやすい環境、家庭と仕事を両立できる環境への取り組みこそが、企業の採用や従業員の退職防止につながり、企業の発展に資する面も大きいと思います。事業者側、労働者側の双方が前向きに働けるよう、引き続き施策が検討されることを期待します。
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