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特    集

「スタートアップ投資契約に見られる基本的条項」・・・弁護士・伊藤祐介

 はじめに
 スタートアップ企業における株式発行型の資金調達では,経営者との人的関係等に専ら依存したエンジェル投資などの例を除き,投資家と会社との間で投資契約が締結されることが通例である。
 以下,投資契約においてよく見られる基本的契約条項について概括する。
1 剰余金の配当について
 スタートアップ企業への投資に対する金銭的対価は,投資家が将来得るキャピタルゲイン(資本増加益)である。もちろん,投資先企業に対する役員選解任をハンドリングするようなオプションの存在する投資契約も存在するが,このような契約も,「役員選解任をハンドリングすること」がかかる投資の終局目的なのではなく,最終的には企業価値の増大に基づくキャピタルゲインを得ることが投資家の最も期待する利益となる。
 その上で,剰余金の配当とは,会社が投資家に対し,その有する株式数に応じて,会社の財産を分配する行為をいう(会社法(以下「法」)第453条等)。そして,法は剰余金の配当について,内容の異なる株式を発行すること(いわゆる種類株式の発行)を認めている(法第108条1項1号)。
 スタートアップ企業への投資において,一般的に用いられるのは,普通株主に対して剰余金の配当が優先されるとする配当優先株式である。
 しかし,配当優先株式が用いられることから,実際に優先配当が行われることは必ずしも導かれない。すなわち,スタートアップ企業において,収益を上げた場合,投資家に対して逐一収益を還元することよりも,収益を運転資金に回し,さらなる事業拡大ないしはIPO,M&Aを目指す方が合理的経営判断と考えられる場合が多い。なぜなら,先に述べた通り,投資家が想定すべき金銭的対価は,剰余金の配当ではなく,あくまで将来得るキャピタルゲインだからである。剰余金の配当にこだわることで,IPO等が遠ざかってしまうのでは本末転倒な結論となってしまうからである。
 では,なぜ配当優先株式が一般的に用いられるのであろうか。この条項の意味は,普通株主に対する牽制的意味合いを持つにとどまるものと解釈して良いように思われる。すなわち,剰余金についての優先配当条項を定めることで,普通株主に対して過度に剰余金の配当を行い,会社財産を消費させることを牽制する効果が期待されているのではないか,と解釈される。
2 残余財産の分配・みなし清算条項について
 残余財産の分配とは,会社清算の際に,清算株式会社が会社債務を弁済してなお残る財産(残余財産)があるとき,これを株主に対して分配することをいう(法第504条)。そして,法は,残余財産の分配について,内容の異なる株式を発行することを認めている(法第108条1項2号)。
 スタートアップ企業への投資において,一般的に用いられるのは,普通株主に対して残余財産の分配が優先されるとする優先分配株式である。
 しかし,優先分配株式が用いられることについて,このような条項が存在することが投資家にとって十分なリスクヘッジとなるとまでは言えないように思える。そもそも,会社を清算させる経営判断がされる場合は,通常の場合は,既に会社が債務超過に近い状態となっていることが多いであろう(既に債務超過となっていた場合は破産申し立てしか選択の余地はない)。そのような場合は,優先分配条項を投資家が有していたとしても,分配可能額はほとんど存在していないことが通例であろう。
 このような条項が実質的にみて効果を発揮するケースとしては,早い段階で事業に見切りをつけ会社清算に至ったケース(投資契約において,上場の時期を努力目標として定める場合も散見される)や,スタートアップ企業が投資家からの資金調達を受けた後に,勝手に会社を清算させてしまうケースを牽制する目的などで,効力を発揮すると考えられる。
 また,会社のM&AによるExitの際に,会社が一度清算されたものとみなして,M&Aの対価の分配を投資家に対して行う条項を「みなし清算条項」という。みなし清算条項についても,投資家にとってキャピタルゲインが得られる効果があることから,普通株主に優先して,投資家に対してこれを分配する条項が定められることがある。

 


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