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「相続法の改正」・・・弁護士・高井陽子

 相続法(民法第五編相続)の分野については、昭和55年に比較的大きな改正がなされた後も小さな改正は行われてきましたが、高齢化の進む現代社会において、残された配偶者の保護や相続をめぐる紛争防止の必要性から、これを大きく見直す必要性がありました。また、最高裁判所による判例の変更もあり、かかる変更によって生じる不都合を解消する必要もありました。
このような社会経済情勢の変化等に対応するため、平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立しました。
以下、主な改正内容を説明させていただきます。なお、今回の改正は、一部の規定を除き、平成31年7月1日から施行されます。
第1 配偶者を保護するための方策について
 1 配偶者短期居住権
   配偶者が、被相続人の財産の属した建物に、相続開始の時に無償で居住していた場合には、遺産分割が終了して建物の帰属が確定した日、又は、相続開始から6カ月経過する日の、いずれか遅い日までの間、無償にてその居住建物を使用できるようにしました(改正民法1037条1項1号)。ただ、短期居住権は、使用貸借類似の権利ですので、第三者に対する対抗力はありません。
 2 配偶者居住権
   配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、遺産の分割又は遺贈によって、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することとしました(同法1028条1項)。
   かかる配偶者居住権は、共同相続人の合意又は、配偶者が請求することによって、家庭裁判所の審判によって取得することもできます(同法1029条)。また、居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負いますので、配偶者居住権は、かかる登記によって第三者への対抗力を有します(同法1031条)。
 3 持戻しの免除の意思表示の推定規定
   婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、居住用不動産の遺贈又は贈与をしたときは、持戻し(遺産の先渡しとして扱うこと)の免除の意思表示があったものと推定し、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようになりました(同法903条4項)
第2 遺産分割等に関する見直し
 1 遺産分割前の払戻し制度の創設等
   最高裁平成28年12月19日決定は、従来の判例を変更し、預貯金債権について、遺産分割の対象に含まれる旨判示しました。そして、かかる決定の下で生じる不都合を解消するために、相続人が、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い等をするために、遺産分割前に払い戻しを受けられる制度が創設されました(同法909条の2他)。
 2 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
   共同相続人間の公平を図るため、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意によって、当該処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになりました(同法906条の2)。
第3 遺言制度に関する見直し
 1 自筆証書遺言の方式緩和
   自筆証書遺言では、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないのですが、自筆証書遺言にこれと一体のものとして相続財産の目録を貼付する場合には、その目録自体を自書する必要はなく、パソコン等で目録を作成し、目録の頁ごとに署名押印をすることで足りることになりました(同法968条)。
 2 遺言執行者の権限の明確化等
   遺言執行者の権利義務、遺言執行者の行為の効果について明文化し、遺言執行者の権限等を明確化しました(同法1007条、1012条ないし1016条)。
第4 遺留分制度に関する見直し
   遺留分減殺請求権の行使の効果を見直し、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることとしました(同法1046条1項)。また、裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、金銭債務の全部または一部の支払いにつき相当の期限を許与することができるとしました(同法1047条5項)。
第5 相続の効力等に関する見直し
   現在の判例法理では、遺言による不動産の承継に関し、遺贈によれば民法177条が適用され、相続分の指定等によれば民法177条が適用されず、第三者の取引の安全を害するおそれがありました。    そこで、かかる判例法理を見直し、法定相続分を超える権利の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができなくなりました(同法899条の2)。
第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
   被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができるようになりました(同法1050条)。なお、かかる特別寄与者の権利行使には、除斥期間が設けられています(同法1050条2項但書)。


 


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