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「養育費の算定基準について」・・・弁護士・吉川 愛

 養育費の算定方法は、現在は裁判所のホームページなどでも算定表が公開されており、大体の目安というものが分かるようになっています。ご覧になったことがある方もおられるかと思いますが、この算定表の考え方について今回は少し説明をしたいと思います。

1 まず、養育費というものは、扶養義務を前提に発生するものですが、扶養義務の中でも生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務のことを言い、自分の生活を犠牲にしない程度で、被扶養者の最低限の生活扶助を行うもので足りる生活扶助義務と比較すると分かりやすいかと思います)を前提にしています。従って払う側の収入が大きく影響することとなりますが、払われる側の収入についても「義務者の生活を保持するのと同程度」のレベルを算出するために考慮されることとなります。

2 算定のための基本的な考え方をまずは説明します。
 まず双方の収入を算定します。給与所得者を例にすると、税込み収入から、公租公課や、職業費、特別経費を差し引いた金額を「基礎収入」として算出します。職業費とは、サラリーマンが働くために必要な経費であり、スーツなど被服費や交通費、交際費などが挙げられます。なお、この職業費はサラリーマンにのみ考慮されます(自営業者はこれらは経費としてすでに差し引かれているため、考慮の必要がありません)。特別経費は家計の中でも自己の意思で変更することが容易でないもの、例えば家賃などの住居費がこれにあたります。
 その後、権利者と義務者の最低生活費(厚生労働省で毎年告知される生活保護基準)を確認し、義務者の基礎収入を前提に、子の生活費を以下の計算方式で算出します。

子の生活費=義務者の基礎収入×義務者の最低生活費/義務者の最低生活費+子の最低生活費
この計算で出された子の生活費を、以下の計算のように義務者、権利者双方の基礎収入の割合で按分します。
養育費の額=子の生活費×義務者の基礎収入/義務者の基礎収入+権利者の基礎収入

3 裁判所は基本的にはこのような考え方で養育費の額を算出しています。従前、養育費を算定するためには、基礎収入や最低生活費を算出する必要がありました。基礎収入については、サラリーマンを例にすると公租公課や特別経費について(職業費は一律で考慮されていたようです)、個別具体的に検討をしていました。これにより何が起きるかというと、養育費を払ってほしい側の権利者が義務者に養育費を請求しても、この個別具体的な事情を認定するのに、とても長い時間を要することになる可能性があります。義務者が資料などをきちんと出してくれればよいのですが、なかなか判断できる資料を出さなかったり、また、特別経費というものの概念は曖昧なため、どこまでを特別経費とすることに対して争いが耐えなかったりすることとなり、結局長引くのであれば妥協を余儀なくされ、権利者の方が正当な権利を主張できない、というような事態も起きていたようです。

4 このような事態を打開するため、平成15年3月に、裁判所から、「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」というタイトルで、簡易迅速な婚姻費用の算定方式及び現在裁判所のHPで公開されている簡易算定表というものが発表されました。基本的な考え方は先ほど説明した算定方式をベースにできあがっていますが、給与所得者を例にすると、全国の統計を利用して、総収入から「職業費」「特別経費」「公租公課」を全て一律の基準で想定させ、基礎収入を算定することとしています。また、最低生活費の算出をした上での生活費の計算をしていたところ、これらも統計を利用し、子の標準的な生活費の指数について、親を100とした場合、0歳から14歳までの子は55、15歳から19歳までの子を90として、子の生活費を計算することとしています(例えば12歳の子一人の場合、子の生活費=義務者の基礎収入×55/100+55となります。)。

 これらを前提に、双方の所得から割り出される養育費の金額の幅を表にしたのが、簡易算定表となります。

5 算定表の存在は、ある基準があることによって双方の話し合いを迅速化でき、非常に有益な部分が多いと思われる反面、個別具体的な事案によっては、形式的な判断においては当事者のどちらかに非常に不均衡な結論を導き出す可能性もあります。一律的に算定表を利用するということではなく、お互いの納得のいく範囲では有効に利用し、状況によっては個別具体的な検討も必要となってくることがあろうかと思います。既に算定表が出来上がってから12年です。最近では問題点を指摘する場面も出てきており、養育費という短くない期間の大切なお金のお話ですので、慎重に検討することが必要な場合もあると思われます。

 


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