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特    集

「家庭裁判所の遺産分割審判・調停事件において対象となる遺産」・・・弁護士・水野賢一

1 はじめに
 家庭裁判所の遺産分割審判・調停事件は、相続に関するあらゆる問題を解決するための手続ではありません。共同相続人である当事者間において分割ができないときに、被相続人の遺産を分割するための手続です(民法907条2項)。この手続において分割の対象となる遺産は、原則として、被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在する未分割の積極財産であるとされています。

2 亡くなった時点で所有していて、現在も存在する遺産
 相続に関してよく争いとなる事柄に、亡くなる直前、あるいは、直後に、被相続人の預貯金から多額の引出がなされているということがあります。この引出のなされたものがそのまま現金として残っていれば、この現金が分割の対象となるので問題とはならないのですが、多くの場合は、現金は残っておらず、誰かが使ってしまったとして問題となります。
 この場合には、「亡くなった時点で所有していて、現在も存在する遺産」という枠内で、分割の対象範囲が決められます。これをあてはめますと、まず、亡くなる直前に引出がなされたものは、被相続人が亡くなった時点では所有していないことになります(被相続人の遺産とはならない)。また、亡くなった直後に引出されたものは、現在は存在していないことになります(存在していないものの分割は不可能)。このことから、亡くなる直前であっても、直後であっても、被相続人の預貯金から引出されて現金として残っていないものは、分割の対象にはならないこととなります。これらの引出がなされたものの解決のためには、いわゆる使途不明金として、遺産分割審判・調停事件以外の手続が必要となるのです。

3 未分割の遺産
 引出されずに残っている被相続人の預貯金が、当然に分割の対象となるのかというと、そうではありません。預貯金債権(払戻請求権)などの可分債権は、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属しているとされているからです(最判昭29.4.8民集8−4−819)。遺産分割審判・調停事件は、分割ができていない未分割の遺産を分割するための手続です。当然に分割されているものを分割の対象とする必要はないのです。
 しかしながら、家庭裁判所の手続ではない当事者間でなされる遺産分割では、預貯金を含めて分割をしているのが通常です。このため、遺産分割審判・調停事件においても、当事者全員が預貯金債権(払戻請求権)を分割の対象に含めるとの合意をしたときには、これも含めるという扱いをしています。もっとも、この扱いをするためには当事者全員の合意が必要ですので、当事者の中に一人でも反対する人がいれば(理由の当否は問いません)、原則に戻って、分割の対象とすることはできません。この場合、各相続人は、当然に分割されている法定相続分に相当する部分について、それぞれが預貯金債権(払戻請求権)の払戻を請求することになります。

4 積極財産
 相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。この承継をするものの中には、当然に消極財産である金銭債務も含まれます。しかしながら、消極財産である金銭債務は、原則として、分割の対象とはなりません。
 まず、金銭債務は、預貯金債権(払戻請求権)などの可分債権と同様に可分であるからです。金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するとされています(最判昭34.6.19民集13−6−757)。
 次に、金銭債務については、可分の問題のほかに、債権者が存在するという問題があります。当事者全員で金銭債務を分割の対象にすることの合意をすれば、可分の問題はクリアーできます。しかし、金銭債務についての分割をしても、各相続人は、分割に加わっていない債権者との関係では、相続分に応じた金銭債務の承継を免れることはできません。このため、当事者全員が合意をすれば分割の対象とはできますが、遺産分割調停においてなされた金銭債務の分割は、債務者間の内部分担の意味での分割ということになります。

 


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