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「改正不正競争防止法」 ・・・弁護士・吉川 愛

 不正競争防止法は、工業上又は商業上の公正な慣習に反するすべての競争行為を規制する法律として定められ、会社が経済活動をする際に、不公正と思われる行為について、民事上・刑事上双方から規制し、その行為を抑制しています。
 不正競争防止法の中に、営業秘密の侵害行為に対する規制が罰則を含めて存在しています。会社の中で営業秘密とされているものを不正に取得して利益を受けることを防止すると共に、国内のみならず、国外にも、日本企業の技術が漏えいすることを防止することは、日本の国益にも資するものです。今回は営業秘密の保護を強化するために、平成27年7月3日に成立した不正競争防止法の一部を改正する法律(同年10月交付、一部を除き平成28年1月1日施行)について一部骨子をご説明させていただきます。

1 刑事処罰に関する改正
 (1)営業秘密侵害罪の罰金刑の上限の引き上げ
  営業秘密の侵害をした個人についてはもともと1千万円の罰金であったところ、上限が2千万円に引き上げられました。事業主は3億円であったところ、5億円に引き上げられました。また、海外への営業秘密流出を防ぐため、侵害によりその営業秘密が海外に流出した場合には、さらに重い刑罰が課されるようになりました(個人につき3千万円、事業主につき10億円)。
 (2)犯罪収益の没収・追徴規定
  営業秘密侵害罪の罰金刑が引き上げられたとはいえ、営業秘密を侵害することで、罰金刑以上の利益を挙げられることがあり得ます。すると、違法と分かっていても利益を重視し、罰金を払えばよい、と考える者が出てくることとなり、抑止力として十分ではないという状態になりかねないことから、犯罪行為によって得た財産については、刑罰により没収・追徴をすることができることとなりました。とはいえ、被害を被った被害者の損害賠償の原資となる資金であるため、民事事件における被害者救済も考慮して、没収・追徴は任意的なものとされています。
 (3)営業秘密侵害罪の非親告罪化
  もともと、親告罪(被害者が告訴することが刑事事件化することの要件)とされていましたが、被害者の告訴がなくとも立件することが可能となりました。主な理由としては、取引先の営業秘密侵害行為などについて、取引上の力関係などから告訴ができないこと、その他営業上の理由により、被害者が告訴を躊躇することがありますが、営業秘密は国益にも資するものであり、刑事事件化するか否かを一企業の判断のみに委ねることは不適当と考えられたからです。
 (4)転得者に対する処罰
  不正取得者及び不正取得者からの取得者以外にも、不正に取得した営業秘密であることを知って使用・開示した場合には、処罰の対象とされることとなり、処罰の対象が増えました。
 (5)営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等の禁止
  営業秘密侵害品を、営業秘密侵害品と知って譲渡したり、輸出入することが、処罰の対象となりました。
 (6)国外犯処罰の拡大
  営業秘密について、日本国内で管理されているものでなくても、日本国内において事業を行う者が保有するものであれば、処罰の対象とされることとなりました。また、海外で、営業秘密とされるものを取得する行為も処罰の対象となりました。従前から、日本国内で管理されている営業秘密を海外で使用したり開示したりすることは処罰の対象となっていましたが、これに加えて日本の企業が海外で保有する営業秘密も営業秘密とされ、また海外にて取得する行為についても処罰の対象となったため、範囲が大きく拡大し、抑止力の増大が期待されます。

2 民事手続の改正
 (1)推定規定
  営業秘密が物の生産方法に係るものであること又は政令指定の技術上の情報である場合に限り、@被告が営業秘密を不正ないし悪意もしくは重過失で取得したこと、A被告が、原告の技術を用いて生産することのできる物を生産していること又は原告の営業秘密を使用したことが明らかな行為として政令で指定された行為を行っていることを原告が立証した場合、被告の製品は、被告が当該営業秘密を使用してこれを生産したものと推定されることとなりました。
  これにより、原告側の立証の負担が大幅に軽減されることとなり、あとは現実の生産行為を行っている被告側に反証を求めることができるようになりました。
 (2)営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等の禁止
  刑事の罰則としても追加されたところですが、譲渡・輸出入について、故意ないし重過失である場合には、差止めの対象とすることが可能となりました。
 (3)除斥期間
  営業秘密の不正使用に対する差しとめ請求の除斥期間が10年から20年に伸長され、侵害行為が長期間継続しているような場合にも救済が可能となりました。

 


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