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特    集

「就業規則」・・・弁護士 梶 智史

1 就業規則とは?
  就業規則とは、労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称のことをいいます。いわゆる「給与規程」、「退職金規程」などもこれに含まれます。就業規則は、使用者と労働者との間の労働契約の内容を定める基準となり、労使紛争においても、労働契約の効力を判断する上で重要な手がかりとなるものです。
  労働基準法(以下、「労基法」といいます。)89条は、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届出なければならない。」として、使用者の就業規則作成義務を規定しています。就業規則を作成するには、まず使用者が就業規則案を作成し、これを労働者の代表に提示し、労働者の意見を聴きます。その後、所轄の労働基準監督署長に届出ることになります。

2 就業規則の効力
  労働契約法(以下、「労契法」といいます。)7条によれば、就業規則の内容が合理的であり、労働者に周知されている場合、労働契約の内容は、この就業規則に規定された条件に従うことになります。つまり、労使間で労働契約上明確に合意されていない部分については、就業規則に規定された通りの条件で合意したのと同じことになるのです。これを就業規則の最低基準効といいます。
  就業規則と法令等の効力の優先劣後関係としては、@法令、A労働協約(使用者と労働組合間の合意)、B就業規則、C労働契約の順になります。たとえば、労基法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定しています。そこで、就業規則に「労働者が無断欠勤した場合は、使用者に対して1日につき3万円の金銭を支払う。」などという規定を置いても無効となります。法令である労基法を優先して適用するからです。

3 就業規則の規定の有無が問題となりうる場合

 (1) 時間外労働
    労基法32条は、法定労働時間を1週あたり40時間と規定しています。使用者は原則として、この法定労働
  時間を超えて労働をさせることはできません(違反した場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に
  処せられるおそれがあります)。
    ただし、@労使協定の締結および行政官庁への届出、A就業規則上の規定がある場合には、使用者は労
  働者に対して、時間外労働をさせることができます。ただし、時間外労働をした労働者に対しては、割増賃金
  の支払が必要です。

 (2) 配転・降格
    職務内容や勤務場所等の変更を行う配転や、職能資格(基本給の算定根拠となる職務遂行能力に基づく
  格付け)を低下させる降格においても就業規則上の規定が必要です。
    たとえば「君には来月から○○支店で働いてもらうから。」という業務命令(配転)を出したとしても、そもそも配
  転命令権の根拠が労働協約もしくは就業規則に規定されていなければ効力を生じません。労働者はそのまま
  従前の支店で働けば、労働契約上の義務を履行したことになります。
    同じように、「君は明日から平社員として働いてもらうよ。給料も下がるからね。」という業務命令(降格)を出
  したとしても、労働者の同意もしくは就業規則上の規定がないと効力を生じません。

 (3) 懲戒
    懲戒処分とは、使用者が労働者の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰のことです。懲戒処分が有効に
  なされるためには、就業規則にその根拠規定が規定されていることが必要になります。
    懲戒処分に関連して問題となるものに、退職金の支給があります。労働者が犯罪行為など著しい不行状に
  より懲戒解雇となった場合に、退職金を不支給とすることができるのかという問題です。
    そもそも、退職金の支給自体、労使間の合意に基づいて発生するものですから、就業規則にその支払に関
  する規定がないと退職金支給は認められません。そして、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とするために
  は、さらに就業規則上の根拠が必要になるのです。

4 配転・降格・懲戒については、労働者が被る不利益が大きいため、労使紛争において、そもそも就業規則上の規定の有効性自体を否定されることも考えられます。そこで、あらかじめ就業規則に明確に定め、疑義を生じない運用を心がけるべきでしょう。

 


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