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「成年後見人の業務」・・・弁護士・吉川 愛

  成年後見制度は、2000年4月、民法改正によって新たに設けられた制度です。現に判断能力が不十分な状態である本人について、本人または家族(配偶者又は四親等内の親族)の申立てによって家庭裁判所が適任と認める人を本人の権利擁護者として選任する制度です。成年後見制度の詳細は当事務所サムアップ14号の特集で説明されています。
  今回は現実に成年後見人に選任された場合の具体的な仕事内容について、注意点も含めて解説してみたいと 思います。

1 開始後にまず行う業務
  まずは、成年後見人選任の申立事件の家事審判記録を閲覧します。そして記載されている関係者、本人と面談 し、事情を聞いた上で管理すべき財産関係の書類や印鑑等の引き渡しを受けます。成年後見人は財産を全て管 理することとなりますので、一部第三者に預けたままにしたりするのではなく、全てを預かることとなります。
  財産を一元化して管理するため、成年後見人の口座を開設します。口座名義は「○○成年後見人××」となり、 口座名義とおりでも振込ができますが、本人の名前のみでも振り込めるよう手続をしておくこともできます。公共料金、税金等の支払いについての手続を行うことが必要となります。
  本人の収支を把握し、年間支出額の予定と支払金確保の計画表を作成し、裁判所に提出する必要があります。
この年間の収支計画表と後見業務の報告は定期的に裁判所に報告することとなります。

2 日常の業務
  財産管理業務と身上監護に関する業務が中心です。
  財産管理業務としては、預貯金を管理すること、収入、支出を管理すること、金融証券等の管理をすること、税務処理を行うこと等が考えられます。
  預貯金は、後見人個人の財産とは明確に区別出来る状態で管理する必要があります。収入、支出については定期的に裁判所に報告しますので、金銭出納帳に記載し、項目毎に整理しておく必要があります。証券類は、投資等は相当ではありませんが、価格が急落し処分する必要が生じた場合には別の対応が必要になりますので、価格の変動状況に注意することが望ましいです。税務処理については不動産収入等の所得、相続財産の取得等での確定申告が必要な場合には、この申告業務も後見人の仕事となります。
  身上監護に関する業務としては生活、療養看護に関する事務が業務となります。具体的には、本人の生活全般に渡る法律行為を行うことで、医療に関する契約、施設への入所契約、介護に関する契約等がこれにあたります。
  契約締結だけでなく、契約の締結のために必要な調査を行ったり、契約後の履行状況を監視することも業務となることがあります。

3 特別な業務
  本人の居住用不動産を処分する際には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。処分の意味は売却のみに限らず、本人が住んでいる住居が借家の場合でも賃貸借契約を解除したり、所有財産に抵当権を設定する行為も含みます。本人が既に有料老人ホームに入居した場合であっても、入居前に居住していた不動産は居住用不動産となり、許可が必要となります。
  本人の資産を増やすための投機的行為は、後見人の目的からすると不相当な行為となります。ただ、本人の施設入居のための資産を確保するための目的としての証券の売却や、明らかに価格が急落することが予測される証券等の売却については、後見人として必要な処分となります。
  成年後見人は、医療契約を締結する権限はありますが、医療行為に対する同意権限はないとされています。ですので、現段階では、医療契約を締結しても、医療行為に対する同意の問題がクリアーされないと、本人が医療行為を受けられない状況となります。このような問題に直面した場合には、家庭裁判所に相談すべきであると思われます。

4 終了時の業務
  本人が死亡したり、やむを得ない事由がある場合に裁判所の審判を経て辞任し、新たな後見人に引き継ぐ作業を行った場合、解任された場合には後見業務は終了します。
  本人死亡時には、家庭裁判所に本人死亡による後見終了を行うこと、後見終了の登記を行うことが必要となります。その上で後見の精算事務を行い、後見人の報酬付与を家庭裁判所に申請します。管理財産を相続人に引き継ぎ、最後に後見終了の報告を家庭裁判所に行うこととなります。
  死亡後に葬儀費用その他必要な支出がある場合がありますが、原則として後見業務は死亡により終了し、後 見人としての支出はできないこととなります。しかし、後見終了後でも、後見人の業務は一定の範囲で存続し、急迫の事情があった場合には、本人のために必要な範囲で後見の事務を処理しなければならないとされています。
 ただし、葬儀費用等が直ちに急迫の必要性があるとは一概には言えませんので、そのたび毎に慎重に判断する必要があります。

5 損害賠償責任等
  後見人が本人に損害を与えていることが発覚した時は、家庭裁判所は職権又は本人もしくはその親族等の請求により、後見人を解任することができます。
  また、民事上の不法行為責任に基づく損害賠償責任を後見人は負いますし、その行為が背任や横領に当たるときには、刑事責任を問われることがあります。安易な管理は行わず、第三者のための業務であることを認識して責任を持って行うことが要求されます。

 


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