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特    集

『賃貸借』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・弁護士・市河真吾

 今回は私たちの生活に身近な賃貸借、特に借地借家の基礎知識について解説したいと思います。

1 賃貸借契約の締結
 土地や家屋などの賃貸借契約を締結するに当たっては、賃貸借契約書が作成されるのが一般ですが、契約書がなくても、当事者間の合意があれば法律上は賃貸借契約は有効に成立します(民法601条。なお、後述する定期借地権、定期借家権は書面が必要です)。但し、契約期間、賃料、目的物など基本的事項は明確にしておかなければなりませんし、後日のトラブルを防止する意味からも契約書を交わすのが合理的でしょう。

 借地・借家に関しては、民法のほか借地借家法という特別法の適用があり、借地人、借家人の保護が図られ、同法に反する契約の効力は無効となる場合があります。また、後述するように判例によって、無催告解除が制限される場合があるなど契約書に定めた事項が絶対的に当事者間を拘束するものとはいえない場合があることに注意すべきです。

2 権利金・敷金等の授受
 賃貸借契約の締結の際に、権利金、敷金といった金員が賃借人から賃貸人に支払われることがあります。特に借地・借家の場合は一般的です。

 権利金は、@営業権ないし営業上の利益の対価、A賃料の一部の一括前払い、B賃借権設定の対価あるいは賃借権譲渡の承諾料の3種類があります。借家では礼金と呼ばれます。これらの権利金は原則として賃貸借が終了しても返還は認められません(但し、Aに関しては前払いに相当する期間前に終了した場合は返還は可能です)。

 これに対し、敷金は、明渡時までに未払い賃金等賃貸借契約から生じる賃借人の一切の債務を担保するもので、明渡後、未払い賃金等の債務を控除した残額が賃借人に返還されます(判例)。「保証金」といわれるものも敷金と同様の性質のものです。

3 賃料の増額
 借地借家の賃貸借の期間中に物価その他の経済的事情から賃貸人としては賃料を値上げしたい場合が生じることがあります。その場合は、賃貸人から賃借人に対し、賃料増額請求ができます(借地借家法11条、32条)。しかし、賃料の増額があまりに高額であったりした場合は、一方的に値上げが認められてしまうと賃借人にとって不利益です。そこで、両者の合意が得られない場合は裁判で増額が相当かどうか判断されます(なお、手続的には裁判の前に調停を申したてることが要請されています。)。

 もっとも、増額が裁判等で確定される前でも、賃借人は相当と認める額を支払わなければなりません(借地借家法11条2項、32条2項)。

4 賃貸借の終了
 契約において定めた賃貸借期間が満了すれば、賃貸借は終了するのが原則です。
 注意すべきは、借地(建物所有目的の土地賃貸借契約)においては、30年以下の期間を契約で定めても、借地借家法により、30年とされ、30年を超える期間の定めがある場合にその定めによるとされていることです(借地借家法3条)。但し借地契約の合意更新の1回目は、20年、2回目以降は10年と期間を定めることができます。

 また、賃貸借は期間満了以外に、債務不履行による解除、当事者の解約申し入れ等により、終了することがあります。賃貸借契約書には、賃借人に賃料不払い等の債務不履行があった場合に催告(一定の期日までに支払うことを条件とすること)を要せず、賃貸人は直ちに解除できるとの無催告解除条項を定めることがあります。

 しかし、判例によれば、債務不履行が相互の信頼関係が破壊されている場合に限り、無催告解除できるという解除の制限解釈がなされています。例えば、不払いが一回であったなど信頼関係を破壊しない些細な不履行の場合は、無催告解除条項を定めても解除は認められません。

5 契約の更新
 賃貸借の期間が満了しても当事者間の合意により、契約を更新できます。その際、更新料を支払う旨の条項が契約書に定められる場合がよくありますが、このような特約は有効と解されています。

 しかし、賃借人が更新請求をしても、賃貸人が更新を拒絶する場合は、更新が困難となります。そこで、借地借家法は、賃借人を保護するため、賃貸人が更新を拒絶する場合は、「正当の事由」が必要と定めています。そして、かかる「正当の事由」がない場合、賃貸人の同意がなくても更新がなされます(借地借家法5条、6条、26条、28条。法定更新)。借家の場合、賃貸人は期間満了の1年前から6ヶ月前の間に更新拒絶の通知を賃借人にしなければなりません(借地借家法26条)

 ここでいう「正当の事由」(借地借家法6条、28条)とは@土地や建物の使用を必要とする事情のほか、A従前の経過、B利用状況、C明け渡しと引き換えの財産上の給付を考慮して判断されます。Cはいわゆる「立退料」と呼ばれるものです。
 また、期限の定めのない借家の場合の賃貸人からの解約申し入れにも同様に「正当の事由」が必要とされます。
 なお、借地の場合は、賃借人が更新請求した場合に遅滞なく異議を述べなかった場合も法定更新されます(借地借家法5条2項)。

6 定期借地権・定期借家権など
 このように通常の借地権、借家権の場合は、借地借家法により、強く保護されおり、逆に賃貸人の立場からすると一度貸すとなかなか戻ってこないということになり、かえって貸し渋りが生じてしまい、土地や建物の円滑な利用が制限されることになります。そこで、更新を認めない「定期借地権」、「定期借家権(期限付建物賃貸借)」などが認められています(借地借家法22条、23条、24条、38条、39条)。これらは通常の借地借家契約と異なり公正証書等の書面によらなければ、効力は認められません。


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