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特    集

『消費者契約』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・弁護士・田原 緑

今回は、平成13年4月1日に施行された消費者契約法を取り上げます。この法律は、わずか12条の小さい法律ですが、弱い立場にある消費者の味方となるもので、かつ、消費者生活に大変関わりの深い関わりを持つものです。

 この法律制定の背景には、消費者トラブルの急増という事情があります。消費者センターに消費者から寄せられた相談の件数は、1989年から1998年の9年間の間に、16万5000件から41万5000件にも増えているのです。これまで、私人間の法律問題は、民法や昔の訪問販売法等の規定によって解決されてきたのですが、このようなトラブルの急増は、これらの法律では、消費者保護を十分に図ることができなかったことを示しています。

 もともと消費者と事業者との間には、持っている情報の量・質・収集能力にも、また、契約締結にあたっての交渉能力にも格段の差があります。ですから、その差が十分に考慮されていなかった上記の法律によって消費者を保護することには限界があったのです。そこで,今回の制定に至ったというわけです。

 この法律には、4つの特徴があります。1つ目は、事業者が契約を勧誘するにあたって不当な方法で消費者を誤認,困惑させて契約させた場合、消費者はその契約を取り消すことができる点(法4条ないし7条)です。たとえば、「値上がり確実、絶対儲かる」等と言われて先物取引を始めたが、値下がりによって大損してしまった場合、あるいは、セールスマンが玄関に居座り、「契約しないと帰らない」などと言ったため、やむなく契約してしまった場合などがこれにあたります。これまでも、民法上の「詐欺」あるいは「強迫」行為があった場合であれば契約を取り消すことが可能でしたが、消費者契約法上の取消権については、行使の要件が緩和されていますので、消費者保護につながるものと考えられます。ただ、逆に、取消せると気づいたときから6か月を経過してしまったときなどは、民法上取消し可能でも消費者契約法上は取消せません(法7条1項)ので、消費者としては自分にとって有利な方を選択して主張することになるでしょう。

 2つ目は、事業者の損害賠償責任を免除する条項など、消費者に不利益で不当な一定の場合には、その条項が無効となる点(法8条ないし10条)です。具体的には、契約書上たまにみられる「いかなる理由があっても当社は一切責任を負いません」「商品に欠陥があっても、交換・修理の責任は負いません」等の条項が無効となると考えられます。これにより、消費者が事業者に対して責任追及した場合に、これらの条項を楯に断られたとしても、逆にその条項が無効であることを主張して、責任追及することが可能になるのです。これまで、民法上、契約が無効であると認められるためには、かなり厳しい要件をクリアする必要がありましたが、消費者契約法により、無効の主張はしやすくなっています

 3つ目は、事業者が契約条項を定めるにあたっては,契約内容が消費者にとって明確で平易なものになるよう配慮し、勧誘に際しては消費者に契約内容についての必要な情報を提供する努力する義務を負担する点です。これにより、事業者がこの努力を怠らなければ、消費者が契約してもよいのかどうかを判断するための適切な材料を得ることができるようになりますし、不当な勧誘なども減少し、消費者が重い義務を負担したり、あるいは,権利を不当に侵害されるなど、消費者が被害を被ることを未然に防ぐことができるようになります。

 4つ目は、消費者の努力目標も掲げられている点です。消費者が契約するにあたっては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の契約の内容について理解する努力をする必要があるのです。この法律は、もともと消費者保護を目的とする法律ですから、消費者がこの努力を怠ったからといって、契約の取り消しあるいは無効の主張ができなくなるということはありませんが、消費者が被害に遭わないようにするためには、自らも慎重になる必要があるということを注意的に規定しているのです。

 以上みてきたように、消費者契約法は、消費者保護の観点から適正な契約がなされるようにするために制定されたものですが、違反行為があった場合に事業者に対して行政処分や刑事罰を科したりするものではありません。ですから、そのような場合、消費者自身が取消権を行使したり、無効の主張をしたりする必要があるのです。このように、この法律の趣旨あるいは目的を実現するには、消費者自身が能動的に行動し、法律を自ら活用していく必要があるのです。その意味で、この法律が今後本当に消費者保護に役立つかどうかは、消費者自身にかかっているともいえます。


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